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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)230号 判決

控訴人 近基相互住宅株式会社

右代表者代表取締役 橋本明

右法律上代理人支配人 橋本英喜

被控訴人 阪和商事株式会社

右代表者代表取締役 南元春

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。和歌山地方裁判所昭和四二年(ケ)第七六号不動産競売事件における配当表のうち、順位(一)の被控訴人に対する昭和四一年四月二一日第一〇七九七号登記抵当権の元本に対する配当金額一、二六四、八〇〇円、及び上記元本に対する昭和四二年一月二三日以降昭和四三年九月三日迄年三割の損害金に対する配当金額七七五、七八〇円を取消し、順位(三)の配当債権及び配当金額を控訴人に対する配当金額三二四、四四三円と変更し、右金員を控訴人に配当せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

控訴人の本訴請求原因たる主張の要旨は、被控訴人が本件競売申立事件(根抵当権に基く競売たること弁論の全趣旨により明白)において、当初の申立書記載の債権額よりも所謂配当手続の際に債権額を追加したことを以て違法とし、右追加債権額については、被担保債権としての優先弁済効を認めるべきではない、というに在って、これに対する被控訴人の反論は、所謂任意競売における申立債権額の記載は、これを当該手続における被担保債権の主張として限定する意味を持たないから、競売の基本となった担保権の担保する限りは、配当段階までに当然債権額の追加が許容されるというに在る。よって右両者の見解の当否につき検討するに、いわゆる任意競売は、申立人の有する私法上の各種の担保権の換価機能の実現に奉仕する国の協力手続であって非訟的性格を帯びるものである上に、私権の存在範囲(即ち債権額)を確定した上で、その限度で債務者財産上にこれが実現のための強制力を付与する債務名義を基本とする強制競売とは異なり、任意競売の開始は、前記の担保権の換価機能が発現しさえすればよいのであって、その際に右担保権の被担保債権額は一応確定していることは当然想定できるが、右債権額をその限度で固定させなければならない理由も必要もなく、目的物が換価され、売得金の配当が実施されるまでに通常要する可なりの期間内に、右の債権額は、或いは損害金の累積、根抵当権の場合には他の手形の不渡など(所謂根抵当の確定手続は現行法上必ずしも要求されていない)により、或いは一部弁済、担保手形の決済等の事由により、増加又は減少することは当然予期せられるところで、かような被担保債権の変動を一切許容せず、又は変動があっても競売手続上一切これを無視して顧みないとするが如きは、右競売手続の前示の性質論から言っても、又右被担保債権の持つ変動性とこれに即応すべき換価機能としての要請の点から言っても、右所論の妥当性を認めることができない。反面から言えば、配当段階において競売申立人の為す配当請求額を基準とすれば、競売申立時の申立債権額は往々にして過少又は過大であり、この不一致の生ずることは、この手続における債権が権利の本然性のままの所謂生きた債権であり、債務名義の枠をはめられた固定した債権でないことから生ずる必然的な結果であるとさえ言えよう。従ってまた、この種の競売手続における目的物件に対する競売開始による差押の効力範囲即ち拘束力の内容は、申立債権額に即応して生ずる性質のものではなく、申立債権者の有する担保権の効力自体に即応するものと考えられねばならない。

以上のように、任意競売における申立人の申立債権額が、その性質上将来の変動を含むものであるとすると、本件申立債権額そのものには、控訴人主張のような自己限定性や自己拘束性はなく、優先弁済効は配当の際に、競売裁判所が申立人の申立の原因となった担保権が担保するとするその際の配当請求の債権の存在を審査判断した上、その判定額の上に、登記された被担保債権額又は極度額の範囲内で与えられるもので、控訴人のいう如き、当初の申立額に限られるものではない。本件において被控訴人の自認するように、当初から申立債権以外の債権が存在する場合に、格別の理由もなくその一部のみを申立債権額として競売申立をすることは、根抵当の特異性を考慮しても、必ずしも好ましい事柄とは言えないけれども、この場合でも、それ故に担保権の優先効が右申立債権額に限定されたものとは言い得ないこと前述と同断であって、このような申立方法が他に特段の違法な意図を含むものでない限りは、それだけで直ちに違法視し、その追補の効力を認めない訳にはゆかない。ただこの場合、申立人は民訴法第六七五条第一項の準用につき、申立債権額のみを標準とする取扱を受ける可能性があり、自らの不利を甘受しなければならないだけであり、また控訴人所論の競売申立記入登記の登録税の基準よりする可否の問題は、目的不動産の価額が基準とされる余地がある上に、本来は副次的な事象であって、この点からこの種申立の可否を論ずることは本末転倒に近い。

以上当裁判所の見解によれば、控訴人の主張はすべて理由がないから、右主張の上に立って本件競売手続における配当額の是正を求める控訴人の請求は失当たるを免れない。よってこれを棄却した原判決は相当で、控訴は理由なく棄却すべきものとし、訴訟費用につき民訴法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 宮川種一郎 判事 竹内貞次 畑郁夫)

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